ご あ い さ つ

ご あ い さ つ

小 嶋 芳 行*

1.はじめに

 2023年6月1日の明治大学生田キャンパスにおいて開催されました無機マテリアル学会第74回総会において,山本岳史会長の後を受けて本学会の会長を拝命いたしました日本大学理工学部の小嶋芳行です.わたくしは荒井康夫会長(第6代),安江任会長(第10代)から薫陶を賜りました.残念でしたのは17年前に安江会長が任期半ばで急逝されてしまったことであります.これまで,三五会長,山本会長のもとで副会長を4年間勤めましたが,会長職はこれまで感じたことのない重責であり,身が引き締まる思いであります.これから無機マテリアル学会会員の皆様のご協力を賜りますようお願い申し上げます.わたくしは大学4年生の時の1985年に石膏石灰学会に入会し,翌年の第72回の学術講演会においてはじめての学会発表をいたしました.今回が第146回の学術講演会となりましたので半分以上を体験したことになります.時代も「昭和」→「平成」→「令和」と移り変わり,学会発表も英語スライド,OHPそしてパワーポイントと変化してまいりました.本学会は1950年に石膏研究会として発足し,その後石膏石灰学会となり,1995年より現在の無機マテリアル学会となりました.今年で創立73年となります.今から3年前の2020年6月に工学院大学の大倉先生を中心に70周年の記念行事を執り行う準備をしておりましたが,コロナ感染症の影響により開催することができず,1年後に開催することも予定しておりました.しかしながら,1年たってもコロナ感染症は収束する気配がみらなかったため,記念行事を中止することになってしまいました.2025年には75周年の記念行事を執り行いたいと考えております.この3年間はこれまでに経験のない未曾有のできごとであり,学会としましては2020年6月および11月の学術講演会は中止となり,2021年6月からはオンラインでの学術講演会を開催できるようになりました.そして,2022年11月では3年ぶりに対面での学術講演会を熊本で開催できるようになりましたが,懇親会は開催されませんでした.理事会も2023年5月にようやく対面でできるようになりました.本年2023年の第146回の学術講演会ではようやく総会および懇親会も対面で行えるようになりました.今後は学会活動がすべて対面で行えるようになります.やはり,会員の皆様とフェイスtoフェイスで話をし,議論を重ねていくうちにいろいろなアイディアが得られるので大変よろこばしく思っております.本稿では,ごあいさつとあわせて本学会が取り組むべき課題と所信を述べさせていただきます.

2.会員の動向について

 無機マテリアル学会の前身の石膏石灰学会時代に会員が1000名近くになり,法人化にするとの話も聞きましたが,その後会員の減少が続いております.2012年に正会員数は700名を保持しておりましたが,翌年からは600名台となり,2020年には500名台となりました.学会の会員数が減少しているのは無機マテリアル学会だけではなく,日本セラミックス協会,日本化学会でも同じことが起こっているといわれています.コロナ禍において学会活動ができなくなってやめられた会員も多いようです.2023年5月での正会員数は543名,学生会員66名となりました.

3.JIS規格の改訂について

 無機マテリアル学会は5つのJIS規格(JISR9111「陶磁器型材用せっこう」,JISR9112「陶磁器型材用せっこうの物理試験方法」,JISR9101「せっこうの化学分析方法」,JISR9200「せっこう及び石灰に関する用語」)以前は安江会長が委員長としてこれら4つの規格(JISR9111,9112,9101,9200)の改訂を行っておりましたが,安江会長ご逝去後日わたくしが引き継ぎ担当させていただいております.今年はJISR9101の改訂を行い,陽イオンを誘導結合プラズマ発光分析により分析できるようにしました.このように,今後も分析機器の発展などに対応すべく,手分析を残しつつも,新たな機器分析などを取り入れていくような規格の改訂が必要になると思われます.そのためにも,若手の人材育成などが必要かと考えております.

4.財政状況について

  学会の収入源は会費収入と広告収入が主であります.学会の会員の数が減少するということは財政状況に直結することから非常に重要な問題であります.これまでなんとか黒字を維持することができていましたが,今年度の予算では赤字になることが予想されております.会費納入については昨今の時勢を考慮し,電子決済で会費納入できるように検討したいと考えております.ではありますが,まずは皆様に今年度の会費納入にご協力お願いいたします.


5.海外交流について

無機マテリアル学会として海外視察なども行ってまいりました.2004年にISIEM(International Symposium of Inorganic and Environmental Materials)がオランダのアイントホーフェンで開催されました.その後,ISIEM2012(フランス・レンヌ),ISIEM2018(ベルギー・ゲント)で開催されました.そして,2022年にISIEM2022を開催することを予定しておりましたが,コロナ感染症の影響により開催を1年遅らせてISEIM2023(フランス・モンペリエ)を2023年6月19日から23日に開催することとなりました.前回のISIEM2018と比較しまして日本からの参加者は減りましたが,フランス側の働きかけにより総勢203人の登録者となりました.また,参加者の国はヨーロッパを中心にして16か国となり,前回の21か国と比較すると少なくなっていますが,徐々にグローバルな会議になってきたのではないと思います.国際会議の開催は新会員の増員および学会の活性化にも寄与するため,今後も定期的に開催して参りたいと考えております.個人的には4年おきにISIEMを開催できればと考えております.

6.ハンドブックについて

学会が発行した書籍としましては1995年発行の「セメント・セッコウ・石灰ハンドブック」があります.このハンドブックはセメント,セッコウ,セメントさらにはリン酸カルシウムを研究する方にとってのバイブルになっているとも伺い,それぞれの化合物の基礎的な合成および物性などから,製造方法に至る基礎から応用までを網羅しており,この出版は会員サービスの一つであるとも考えております. 1995年版の編集長は荒井会長(当時)でした.当時わたくしは荒井会長と同じ研究室で専任講師をしており,編集のお手伝いをしておりました.その当時は手書きの原稿も多く,執筆者から送付されてきた手書き原稿をワープロに入力し,図面を作成したりと非常に大変でありました.出版社の方からも「2年以上かかる」,と言われたものを,荒井会長のもと1年半という短期間で完成させたことをなつかしく覚えております.このハンドブックも発行から30年近くになり,統計データの更新,新規材料や新規プロセスの追加などいろいろ改訂を行う必要があると感じています.近いうちに編集委員会を立ち上げ,ハンドブックの改訂に臨みたいと考えております.

7.おわりに

無機マテリアル学会の会員数の減少などマイナスの部分を強調してしまいましたが,ピンチはチャンスだと思っています.近年,カーボンニュートラルという言葉をよく聞きますが,これは2050年までに二酸化炭素(CO2)の排出を実質ゼロにするということであります.ここ数年で企業のCO2排出に関する考え方が大きく変わってきており,排出したCO2の回収貯留(CCS: carbon dioxide of capture and storage),回収したCO2の利用(CCU: carbon dioxide of capture and utilization )を積極的に研究するようになってきています.これは短期的な話ではなく,2050年まで続きますし,終わりのない挑戦のようにも感じます.本学会の維持会員の中はセメント,石灰に関わる会社に勤められている方も多く,このCO2問題は避けて通ることができないので,本学会はこれからこの問題に取り組み,意見交換の場になるよう努めていきたいと考えております.すでに,講習会では2年続けてカーボンニュートラルに関するテーマで講演をしていただき,会員の皆様もそれを聴取されて会社で役立てようと思われていると推察いたします.これからは,学術講演会でも企業の方からもCO2に関わる発表をしていただき,学会全体でCO2を議論するという場にできればと考えております.今後さらに,本学会を発展させていきたいと考えておりますので,会員の皆様のご支援,ご協力を賜りたくよろしくお願い申し上げます.



*本会会長 日本大学理工学部 物質応用化学科 教授